海や川でのレジャーが身近になる一方で、水難事故のニュースも後を絶ちません。
痛ましい事故の報道を目にする度、気になるのが「ライフジャケット未着用」の文字。私も海で釣りをしますが、ライフジャケットは必ず着用しています。
【支笏湖でカヌー転覆 2人死亡】 https://t.co/XGyu3SWoJB 北海道千歳市の支笏湖でカヌーが転覆した事故で、道警は湖底から収容され重体となっていた男女について、搬送先の病院で死亡が確認されたと発表した。2人は湖底で見つかった時、ライフジャケットを身に着けていなかったという。
— Yahoo!ニュース (@YahooNewsTopics) March 29, 2022
当然つけるものといわれつつ「ライフジャケットを着用すれば、実際にどのくらい死亡リスクが下がるのか」と気になっている方も多いのではないでしょうか。
私もその一人です。
今回は、国土交通白書や海上保安庁の統計、東京都の検証実験など、公的なデータを手がかりに、その効果と限界について整理します。
着用で死亡リスクはどのくらい下がる?結論から検証
海や川へ行く人へ ・ライフジャケットを着ろ ・水に入らなくても着ろ ・マリンシューズを履け ・ライフジャケットを着ろ ・救護用に浮き輪やスローロープ(投げ縄)もあると良い ・大人が沖側、下流側で見守れ ・だからラ イ フ ジ ャ ケ ッ ト を 着 ろ っ て 言 う と る じ ゃ ろ
— 小児科医のおじい (@nobu_pediatric) July 20, 2026
日本の公的統計を総合すると、ライフジャケットを着用していた場合、死亡・行方不明となる確率は非着用時に比べて大幅に低くなっています。
国土交通白書2025では、小型船舶からの海中転落による乗船者の死亡率について、非着用者が着用者の約4倍と報告されています。
また、令和6年の釣り中の海中転落に限ると、非着用者の死亡・行方不明率が約46%であったのに対し、着用者は約19%にとどまっています。
この差は大きいですよね。
出典:3 海上交通における安全対策、Vol.663 水辺のレジャーではライフジャケットを正しく着用しましょう | 消費者庁
ただし、この差は「着用すれば必ず助かる」ことを意味するわけではありません。
着用者の中にも死亡・行方不明になった方は存在します。
さらに、効果が発揮されるためには、適切なサイズの製品を正しく着用していることが前提となります。
統計が示すのはあくまで傾向であり、個々の事故状況や着用方法によって結果は変わります。
この点を踏まえたうえで、具体的なデータを見ていきましょう。
海上保安庁・国交省のデータから見る着用と生存率の関係
身長175㌢だけど…首まで来たわ😱 ライフジャケット着ていて助かった😱💧 皆様も釣りに行く際は!ライフジャケットを着用しましょう🙇 https://t.co/8i87a7DIJ0
— 司 (@ib_jiovquxv) July 10, 2020
まず、船舶事故全体の状況を確認しましょう。
国土交通白書2025には、「乗船者の事故における死者・行方不明者のうち約4割は海中転落によるものである。」と記されています。
参考:国土交通省「令和7年版国土交通白書」
つまり、船から海に落ちることが、乗船者の死亡・行方不明につながる最大の要因の一つということですね。
そして同白書は、「小型船舶(漁船・プレジャーボート等)からの海中転落による乗船者の死亡率は、ライフジャケット非着用者が着用者の約4倍と高く、ライフジャケットの着用が海中転落事故からの生還に大きく寄与していることが分かる。」と述べています。
この「約4倍」という数値は、着用しているか否かが生存の可能性に直結することを端的に示しているといえるでしょう。
ただし、白書には対象期間や集計された人数、事故件数の詳細は記載されていない点には注意が必要です。
次に、釣り中の事故に絞ったデータを見てみましょう。
毎年100人近くが死亡 ライフジャケット未着用の釣りが「危険すぎる」これだけの理由 着用していても意味がない使い方も… #文春オンライン https://t.co/871rP8pSIV
— 文春オンライン (@bunshun_online) September 30, 2021
消費者庁が海上保安庁の報告を引用して紹介した令和6年の統計によれば、釣り中に海へ転落した人のうち、ライフジャケット非着用者126人中58人(約46%)が死亡・行方不明となったのに対し、着用者54人中では死亡・行方不明は10人(約19%)にとどまりました。
非着用者の死亡・行方不明率は着用者を大きく上回っており、着用による差が明確に表れていますね。
出典:Vol.663 水辺のレジャーではライフジャケットを正しく着用しましょう | 消費者庁
より古いデータとの比較も参考になります。
海上保安庁が公表した平成17年の確定値では、釣り中の事故者について、「釣り中の事故者では、ライフジャケットを着用していた55人の生存率が82%(45人)であった一方、ライフジャケットを着用していなかった157人の生存率は、48%(76人)」と報告されています。
着用者の生存率が非着用者を大きく上回っており、約20年前の時点でも同様の傾向が確認できます。
ただし、このデータは平成17年単年のものであり、対象人数も合わせて212人と限られている点は留意が必要です。
出典:平成17年における海難及び人身事故の発生と救助の状況について(確定値)|海上保安庁
令和7年の海上保安レポートでは、人身事故者数2,223人のうち、マリンレジャーに伴う海浜事故が702人と全体の約3割を占めるとされています。
その活動内容別では遊泳中が218人、釣り中が213人で、この二つが海浜事故の約6割を占めます。
同レポートに掲載された、遊泳中のライフジャケット着用有無別の死者・行方不明者と生存者の割合(過去5年間)を示す図によると、着用者72人のうち死者・行方不明者は13人(18%)、非着用者1,158人のうち死者・行方不明者は361人(31%)です。
遊泳中の事故者のうち、ライフジャケットを着用していたのはわずか6%でした。
出典:海上保安レポート 2026年版 / 7 海上交通の安全を守る > CHAPTER I. 海難の現況
ここまでの着用者と非着用者のデータを表にまとめると、次のとおりです。
| データ | 指標 | 着用者 | 非着用者 |
|---|---|---|---|
| 小型船舶からの海中転落(国土交通白書2025) | 死亡率(着用者を1とした比) | 1 | 約4倍 |
| 釣り中の海中転落(令和6年) | 死亡・行方不明率 | 約19%(54人中10人) | 約46%(126人中58人) |
| 遊泳中の事故(過去5年間) | 死者・行方不明者の割合 | 18%(72人中13人) | 31%(1,158人中361人) |
| 釣り中の事故(平成17年) | 生存率 | 82%(55人中45人) | 48%(157人中76人) |
出典:3 海上交通における安全対策、Vol.663 水辺のレジャーではライフジャケットを正しく着用しましょう | 消費者庁、海上保安レポート 2026年版 / 7 海上交通の安全を守る > CHAPTER I. 海難の現況、平成17年における海難及び人身事故の発生と救助の状況について(確定値)|海上保安庁
河川・湖での効果は?「川育」マークの重要性も解説
ここまでの統計は、主に海上や船舶からの転落に関するものです。
では、河川や湖での事故にも同じ効果が当てはまるのでしょうか。
国土交通省の河川水難事故防止ポータルサイトでは、「川での水難事故のほとんどはライフジャケットさえ着けていれば防げた可能性があります。」と述べ、ライフジャケットを「川のシートベルト」と位置づけています。
ライフジャケットは「川のシートベルト」なの 川に遊びに行く時は着用するが当たり前になってくれ…… 川での水難事故のほとんどはライフジャケットさえ着けていれば防げた可能性があると言われているレベル 子どもの水難死亡事故の5割弱は河川で起きている 親も必ず注意してあげて欲しい、頼む
— おると🦴整形外科医@筋トレ (@Ortho_FL) July 9, 2026
川では、人は体の数%分しか水面に浮かないこと、流れのある場所では自力で浮き続けることが難しいことが指摘されているのです。
ただし、海上の統計で示された死亡率の差を、そのまま河川事故の死亡リスク低減率として適用することはできません。
川には、複雑な流れや予期しない深み、水中の障害物に足が挟まれるフットエントラップメントなど、海とは異なる固有の危険があります。
河川での使用を前提に製品を選ぶ場合、参考になるのが「RAC川育ライフジャケット認定マーク」です。
NPO法人川に学ぶ体験活動協議会(RAC)が定めた認定規則に基づき、製造者が自己認証したものをRACが認定した製品に表示されるマークです。
主な基準として、流れの中で脱げにくい構造であること、動きやすく泳ぎやすいこと、呼吸確保しやすい浮遊姿勢となること、川の活動に必要十分な強度があることの4点が挙げられています。
小型船舶向けの桜マーク製品とは設計思想が異なるため、活動する場所に応じた製品選びが重要になりますね。
出典:Vol.663 水辺のレジャーではライフジャケットを正しく着用しましょう | 消費者庁、河川水難事故防止ポータルサイト
「着れば安心」ではない?不適切な着用が命取りになる理由
夏休みですね 水遊びの際、安全対策に有効な 「ライフジャケット」ですが 身に着け方を間違えると かえって危険を招くことにも 正しい身に着け方について 動画にまとめました https://t.co/unu0ZX7OrV #nhk_video https://t.co/LDV1ZgGbai
— NHKニュース (@nhk_news) July 25, 2023
ライフジャケットの最も重要な機能は、落水時に鼻や口を水面上に保ち、呼吸を確保することです。
東京都商品等安全対策協議会が2024年度にまとめた報告書では、被験者を用いた浮遊試験(認証マーク等がある6製品を使用)が実施されました。
その結果、立位に近い浮遊姿勢において、非着用時は口位置が水面下になるのに対し、着用時は口が水面上に出ることが確認されました。
つまり、正しく着用すれば呼吸可能な浮遊姿勢が確保されるということですね。
一方で、同じ検証実験では、不適切な使用の問題も浮き彫りになりました。
調節ベルトを緩めに着用した場合や、体格に対してサイズが過大な製品を使った場合、口元の高さ(水面から口位置までの垂直距離)が低くなる傾向がみられました。
消費者庁も、この検証実験の結果を踏まえ、適切に着用できていないと口が水面上に出ない場合があることを注意喚起として紹介しています。
東京都の調査では、都内での実地観測(2024年5月・7月・8月、観測者数918人)も行われています。
その結果、水遊び・遊泳での着用率は全体で13.0%(一般は2.5%)、釣り(ボート上を除く)では7.9%にとどまりました。
ボート(カヌー等)では90.9%と高いものの、水に直接触れる活動での着用は依然として低い状況です。
大人用の所有率も19.6%と、子供用の37.8%を大きく下回っています。
着用率が低い層ほど事故時のリスクが高いことを考えると、この現状は看過できないですよね。
信頼の基準「桜マーク」と製品選び・保守点検
ライフジャケットを選ぶ際、一つの目安となるのが公的な認証マークです。
代表的なものとして、小型船舶の法定備品として要求される基準を満たした製品に表示される「桜マーク」があります。
本年2月から全ての小型船舶の乗船者に桜マークつきのライフジャケットの着用が義務化されています。小型船舶に乗らない方でも、海や川でのレジャーの際にはライフジャケットを着用するなど、安全の確保に努めましょう。このライフジャケット、自宅にあれば万が一の水害の時にも心強いですね! https://t.co/7W3Dc19Nr9
— 警視庁警備部災害対策課 (@MPD_bousai) October 22, 2018
これは国土交通省の型式承認を受け、検定機関による検定に合格したことを示すものです。
また、関係機関や救命胴衣製造事業者等で構成された技術委員会が制定した基準に基づき、日本小型船舶検査機構が性能鑑定を実施して合格した製品には「CSマーク」が付されます。
出典:Vol.663 水辺のレジャーではライフジャケットを正しく着用しましょう | 消費者庁、河川水難事故防止ポータルサイト
注意が必要なのは、桜マークが船舶用としての適合を示すものであり、すべての流水環境での使用を前提としているわけではないという点です。
国土交通省の河川水難事故防止ポータルでは、「桜マークのあるものは、船舶用として合格したライフジャケットであるため、全ての製品が流水での活動に適しているとは限りません。」と明記されています。
川で使う場合は、前述のRAC川育認定マークなど、流水での活動を前提とした基準を満たした製品を選ぶことが望ましいといえるでしょう。
製品選びだけでなく、使用前の保守点検も欠かせません。
浮力体や生地、ベルトに破損がないか、膨張式の場合はボンベが適切に取り付けられているか、使用済みになっていないかを確認することが推奨されています。
破損や期限切れが見つかった場合は、適切に交換する必要があります。
また、購入時には試着したうえで、体格に合ったものを選ぶことが大切です。
肩部を持ち上げてもずり上がらないか、ベルトや股紐に緩みがないかを確認する習慣をつけたいですね。
統計と研究からわかるライフジャケットの重要性
取り上げた公的データを整理すると、次のようになります。
国土交通白書2025は、小型船舶からの海中転落において非着用者の死亡率が着用者の約4倍と報告しています。
令和6年の釣り中の海中転落では、非着用者の死亡・行方不明率が約46%、着用者が約19%でした。
平成17年の釣り中事故では、着用者の生存率82%に対し非着用者は48%にとどまりました。
これらの数値は、着用が死亡・行方不明のリスクを下げる強い関連性を一貫して示しているといえるでしょう。
ただし、いずれのデータも観察された結果の比較であり、着用と生存の間に因果関係があることを統計単体で完全に証明するものではありません。
事故の状況、落水からの経過時間、救助の速さ、水温など、生死を分ける要因は複数あります。
それでも、約20年間にわたる異なるデータソースで同方向の結果が繰り返し確認されている事実は、着用が生存の可能性を高めることを強く示唆していると考えられます。
同時に、効果には条件があります。
適切なサイズを選び、ベルトや股紐をしっかりと締め、体格に合った浮遊姿勢が得られる状態で着用してこそ、口や鼻を水面上に保つ機能が働きます。
緩んだベルトや大きすぎる製品では、その効果が失われかねません。
さらに、活動する場所に応じた認証マークの製品を選ぶこと、使用前に点検を行うことも、命を守るための不可欠な要素だといえるでしょう。
海外の学術研究でも、同じ方向の結果が報告されています。
米国ワシントン大学のCummingsらは、米国沿岸警備隊の2000〜2006年の記録を用いて、レジャーボートの乗船者1,597人(溺死者878人)を分析しました。
その結果、ライフジャケット着用者の溺死リスクは非着用者の0.51倍(95%信頼区間0.35〜0.74)でした。
著者らは、この関連が因果関係であれば、着用によって溺死の約2件に1件を防げる可能性があるとしています。
一方で、多くの事故船舶を分析から除外せざるを得なかったため、推定に偏りが生じている可能性も指摘しています。
国内の公的統計と海外の研究をあわせて見ても、ライフジャケットを正しく選ぶこと、正しく着用することの重要性は十分に裏付けられているといえるでしょう。
水辺に出る際は、機能の担保された製品を適切に身に着けることを、改めて習慣として定着させたいですね。
統計データは、ライフジャケットが死亡リスクを低減させる強力なエビデンスを示しているといえます。
しかし、その効果は適切なサイズと正しい着用が担保されて初めて発揮されます。
水辺の安全は、機能が担保された製品を選び、正しく着用する習慣から始まるのではないでしょうか。
今後も安全な水辺の楽しみ方について、注視が必要ですね。


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