ふとした瞬間に、昔の嫌な出来事を思い出してしまうことってありますよね。
仕事で注意されたこと、人間関係で傷ついたひと言、自分のちょっと恥ずかしい失敗。
「もう終わったことなのに、なんで今さら……」と思っても、なぜか頭の中で再生されてしまいます。
しかも、楽しかった思い出より嫌な記憶のほうが妙に鮮明だったりするもの。
でも、嫌なことほど何度も思い出してしまうのには、心理学的に考えられる理由があります。
私たちの脳には、ネガティブな情報を優先して覚えたり、気になる出来事を何度も考えたりする傾向があるのです。
嫌な記憶がなぜ頭から離れないのかを、心理学の視点からまとめます。
嫌なことほど何度も思い出すのはなぜ?

「せっかくの休日なのに…なんで私はずっと前の嫌な出来事を思い出しているんだろう……」
そんな経験はありませんか?
しかも不思議なのは、うれしかったことよりも、嫌だったことのほうが鮮明に残り、ふとよみがりやすいことです。
実は心理学では、人はポジティブな情報よりもネガティブな情報に注意を向けやすい傾向があると考えられています。
これは「ネガティビティ・バイアス」と呼ばれるものです。
たとえば、職場で何度もほめられたのに、たった1回注意されたとします。
家に帰ってから思い出すのは、、、
「今日はいっぱいほめられたなあ!」
ではなく、
「あの注意のされ方、ちょっと嫌だったな……」
だったりしますよね。
なぜ脳は、こんな少し困った仕様になっているのでしょうか?
その背景のひとつとして考えられるのが、危険を避けるためにネガティブな情報を重視する仕組みです。
危険だった場所や怖かった経験を覚えておけば、次に同じような状況になったときに回避しやすくなりますよね。
つまり嫌な記憶は、脳からすると「次に備えるための大事な情報」になりやすいわけです。
ところが現代では、命にかかわる危険だけでなく、
- 「人前で言い間違えた」
- 「LINEの返信がそっけなかった」
- 「会議で変な発言をした気がする」
といった出来事にも、ネガティブな情報を気にする傾向が表れることがあります。
こちらとしては「もう忘れたいんだけど」と思っているのに、脳としては「いやいや、これは一応保存しておきましょう」と判断しているような状態ですね。
だからこそ、嫌なことを思い出すこと自体は、それほど不思議な現象ではありません。
「また考えちゃった……」と必要以上に落ち込まず、「脳が重要な情報だと思っているのかも」と考えてみると、少し気持ちがラクになるかもしれません。
嫌な記憶が強く残る脳の仕組みとは

嫌な出来事が残りやすい理由には、感情と記憶の関係もあります。
- 怖かった。
- 腹が立った。
- 悲しかった。
- 恥ずかしかった。
こうした強い感情をともなった出来事は、記憶に残りやすくなることがあります。
ここで関係してくるのが、感情の処理に重要な役割を持つ脳の「扁桃体」です。
私たちが脅威や恐怖などを感じると、脳や体は「これは重要な出来事かもしれない」と反応します。
ストレス反応も起こり、記憶を担う海馬などと連携しながら、その経験が強く記憶される場合があります。
だからこそ、昨日食べた昼ごはんは忘れているのに、
「みんなの前で思いっきり言い間違えた瞬間」
だけは何年たっても覚えていたりするんですね。
「お願いだから、そっちを忘れさせて!」と言いたくなるところですが、なかなか都合よくはいきません。
さらに困るのが、嫌な記憶を思い出すと、そのときの感情まで一緒によみがえることがある点です。
頭の中では過去の出来事を振り返っているだけなのに、
「あのとき本当に嫌だったな」
と思っていたら、だんだん当時と同じように腹が立ってきた……。
そんな経験がある人もいるでしょう。
こういうときは、「これは今起きていることではなく、過去の記憶だ」と意識してみるのもひとつです。
椅子に座っている感覚や、足の裏が床に触れている感覚、周囲から聞こえてくる音などに注意を向けてみましょう。
過去へ飛んでいた意識を、少しずつ「今」に戻してあげるイメージです。
嫌な記憶が鮮明だからといって、今の自分にとって同じくらい危険とは限りません。
記憶の鮮明さと、現在の重要度は別物。
ここを分けて考えるだけでも、嫌な記憶の見え方が少し変わってきます。
嫌なことを繰り返す反すう思考とは

嫌なことを一度思い出すだけなら、まだいいですよね。
大変なのは、そこから「脳内反省会」が始まってしまうことです。
- 「あの人はどういう意味で言ったんだろう?」
- 「私があんなことを言わなければ……」
- 「いや、でも向こうにも問題があったんじゃない?」
気づけば、同じ場面を何周もしている。
このように、嫌な出来事や感情について繰り返し考え続けることを「反すう(反芻)思考」と呼びます。
牛が食べ物を何度もかみ直す「反芻」が言葉の由来です。
まさに頭の中で、同じ出来事を何度もかみ直しているような状態ですね。
反すうが始まるきっかけのひとつは、「答えを出したい」という気持ちです。
- 「どうしてあんなことが起きたんだろう」
- 「次は失敗したくない」
そう考えること自体は、とても自然なこと。
場合によっては、問題解決につながることもあります。
ただし、答えの出ない問題を延々と考え続けると、気分の落ち込みや不安につながりやすくなります。
特に人間関係は、相手の本心を完全に知ることができません。
「あの言葉にはどんな意味があったの?」
と1時間考えても、本人に聞かなければ分からないこともありますよね。
そんなときは、「なぜ?」を「次はどうする?」に変えてみるのも方法のひとつです。
「なんであんな失敗をしたんだろう」
ではなく、
「次に同じ状況になったら、ひとつだけ何を変える?」
と考えてみます。
すると、過去をぐるぐる回る思考から、未来に向けた具体的な行動へ移りやすくなります。
また、散歩や家事、軽い運動など、意識を外に向ける活動に切り替えるのもいいでしょう。
頭の中だけで何とかしようとしなくても大丈夫。
考えることを完全に禁止するのではなく、「考え続けなくてもいい環境」を作ることがポイントです。
考えないようにすると逆効果になる理由

嫌な記憶が浮かんだとき、
「もう考えない!」
と強く思った経験はありませんか?
ところが、ここにはちょっとした落とし穴があります。
では、少し実験をします。「白い熊について考えないようにしてください」。
どうですか?かえって白い熊が頭に浮かびませんでしたか?
これは、心理学者ダニエル・ウェグナーらによる有名な実験で「シロクマ効果」として知られるものです。
「絶対に考えない」と決めると、脳はちゃんと考えていないか確認しようとします。
ところが、
「嫌な出来事を考えていないかな?」
とチェックするためには、その嫌な出来事を意識する必要が出てきます。
なんとも皮肉な話ですよね。
「忘れよう、忘れよう」とするほど、結果としてその記憶を意識してしまうことがあるわけです。
寝る前などは特に、
- 「あれはもう考えない」
- 「そうそう、あのとき○○さんに言われた……って、また考えてる!」
なんて、一人コントのような状態になることも。
そんなときは、無理に記憶を追い出そうとするより、「あ、また思い出したな」くらいで受け流すほうがラクな場合があります。
嫌な記憶が浮かんだこと自体を、必要以上に問題にしないことがポイントです。
「また思い出した。じゃあ今やっていることに戻ろう」
そのくらいの距離感でOK。
思い出さないことを目標にするのではなく、思い出しても長居させない。
嫌な記憶を「消さなければ」と頑張りすぎないことが、結果的に記憶との距離を取るきっかけになるかもしれません。
嫌な記憶を引きずらないための対処法

では、嫌な記憶が浮かんできたときは、具体的にどうすればいいのでしょうか。
まず試しやすいのが、「今ここ」に意識を戻すことです。
たとえば、足の裏が床に触れている感覚に注意を向けたり、周囲から聞こえてくる音を探したりしてみます。
「あのとき」に飛んでいた意識を、「今」に戻してあげるイメージですね。
呼吸をゆっくり整えてみるのもいいでしょう。
無理のない範囲で、吸う息より吐く息を少し長めにしてみると、気持ちを落ち着かせるきっかけになります。
また、頭の中で何度も考えてしまうなら、紙やスマホのメモに書き出してみる方法もあります。
- 「何が嫌だった?」
- 「今できることはある?」
- 「次に同じことが起きたらどうする?」
この3つくらいを書くだけでも十分です。
もし今できることがあるなら、ひとつだけ行動に変えてみましょう。
何もできないのであれば、
「これは今日考えても答えが出ないこと」
と、いったん区切ってしまうのもひとつの方法です。
そして意外と大切なのが、嫌なこと以外にも意識を向けてみること。
嫌な出来事がひとつあると、それだけで「今日は最悪だった」と感じてしまう日もありますよね。
そんな日は寝る前に、
- 「コーヒーがおいしかった」
- 「電車で座れた」
- 「友達から来たLINEがおもしろかった」
くらいの小さなことで構いません。
「嫌な出来事以外にも、今日という一日はちゃんと存在していた」と確認してみてください。
もちろん、すぐに気持ちを切り替えられない日があっても不思議ではありません。
目標は、嫌な記憶を完全に消すことではなく、思い出しても必要以上に引きずらないことです。
少しずつ、
「また思い出しちゃった。でもまあ、いいか」
と流せるようになれば、それだけでも嫌な記憶との距離は変わっていくでしょう。
なお、過去の出来事がフラッシュバックのように繰り返し浮かぶ、気分の落ち込みや不安が長く続く、眠れないなど、日常生活に支障が出ている場合は専門家へ相談することも大切な選択肢です。
嫌なことを思い出す自分と戦うのではなく、
「脳にはそういうクセもあるんだな」
くらいから付き合ってみる。
それだけでも、夜中に突然始まる「ひとり脳内反省会」を、少し早めにお開きにできるかもしれません。

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