『聖闘士星矢』で知られる漫画家・車田正美さんをめぐり、元マネジャーらによる巨額の資金横領が明らかになりました。
長年にわたり傍で仕事を支えていた人物による不正だっただけに、驚きを感じた人も多いのではないでしょうか。
また、X上では大谷翔平選手の元通訳・水原一平氏による不正事件についてコメントしている人も多くいました。
どちらも「信頼していた身近な人物が金銭管理に関わっていた」「その人物に裏切られた」という共通点があります。身近だからこそ起きやすい裏切りの構造。
今回は2つの事件を整理しながら、なぜ身近な人による裏切りが起きるのか、その心理についても考えてみます。
車田正美さん横領事件の概要と経緯
2026年9月2日、『聖闘士星矢』などで知られる漫画家・車田正美さんをめぐる巨額の横領事件が公表されました。
【速報】「聖闘士星矢」の作者、元スタッフに”47億円”を横領され、納税が困難になった事を明かす
車田正美
「横領が発覚した当初、弊社の口座残高はわずかしかなく、多額の納税は不可能な状態でした」「下手をすれば車田プロダクションは倒産、私も漫画家として潰れていたかも…」 pic.twitter.com/InDQtNAlVA
— なん速ニュース (@SOWIETK) September 2, 2026
車田さん側の説明によると、長年にわたって経理や対外交渉などを任せていた元マネジャーの男が、会社の資金を不正に流用していたとされています。
男は約25年前、出版社の担当編集者だったころから車田さんと付き合いがあり、その後は車田プロダクションなど複数の会社で取締役を務めていました。
単なる短期間の仕事上の付き合いではなく、長年にわたって車田さんの身近で活動していた人物だったわけです。
車田さんは創作活動に集中するため、経理や対外交渉などの事務を男に任せていました。
ところが、少なくとも2018年ごろから2024年ごろにかけて、会社口座から男が関係する会社や親族・知人の口座などへ資金を送金していたとされています。
さらに、車田さんの会社と似た名前の会社を利用し、本来なら車田さん側に入るライセンス料を別会社へ振り込ませるなど、複数の方法が使われていたと報じられています。
横領金額46億円超 複数の経路を活用
横領されたとされる金額は、約46億8617万円に上ります。
金額の大きさだけを見ても、非常に衝撃的な事件です。
しかも、単純に会社のお金を持ち出すだけではなく、複数の経路を使って資金を動かしていたとされるため、外部からは不正を発見しにくい状況になっていたと考えられます。
発覚のきっかけとなったのは、2024年ごろに行われた東京国税局の税務調査でした。
車田さんは、その税務調査が行われていたこと自体を知らされていなかったとされています。
不正が発覚した時点では会社の口座残高がほとんどなく、納税も難しい状態だったとされ、車田さん自身も会社の存続について危機感を抱いたといいます。
元マネジャー側は横領をほぼ認め、すでに約18億円を弁済したとされています。
一方、残る約28億9000万円について、車田さん側の3社が2026年9月2日に東京地裁へ損害賠償を求める訴えを起こしました。
被告には元マネジャー本人のほか、親族や知人ら、さらに関係する法人も含まれています。
車田さんは会見で、怒りだけでは表現できないやるせなさや虚しさを語り、長年信頼していた人物から裏切られたことへの苦悩を明かしました。
それでも、今後も読者や世界中のファンのために執筆を続けたいという意向を示しています。
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水原一平氏の不正事件との共通点
車田さんの事件を聞いて、大谷翔平選手の元通訳・水原一平氏の事件を連想した人も多いでしょう。実際にXのコメント上でも「一平」の文字が躍っていました。
こちらも、長年にわたって選手を身近で支えた人物による金銭的な不正でした。
水原氏は大谷選手がアメリカでプレーするようになった時期から、通訳としてだけでなく、生活面や仕事面でも支える存在となっていました。
ところが2024年、大谷選手の銀行口座から巨額の資金が不正に送金されていたことが明らかになります。
米司法当局の発表によると、水原氏は違法なスポーツ賭博で多額の損失を抱え、その借金を返済するために大谷選手の口座から資金を不正に送金していました。
不正に送金された金額は、約1698万ドル(約26億円)に上ります。
当時の為替レートによって日本円換算額は変わりますが、非常に巨額な被害だったことに変わりありません。
水原氏は銀行への本人確認の際に大谷選手になりすますなど、口座からの送金を隠すための行為も行っていたとされています。
その後、水原氏は銀行詐欺などの罪を認め、2025年2月には禁錮4年9カ月の判決を受けました。
車田さん横領事件との共通点1:信頼のおける人物の犯行
ここで車田さんの事件との共通点を見てみると、非常に興味深い部分があります。
まず大きいのが、被害者が加害者を長年にわたって信頼していたことです。
車田さんの場合は元マネジャー、水原氏の場合は元通訳でした。
どちらも単なる外部の人物ではありません。
本人のすぐそばで仕事を支え、日常的な業務を担っていた人物です。
車田さん横領事件との共通点2:被害者が金銭管理しづらい状況
また、どちらのケースでも、被害者本人が金銭管理の細部まで直接確認することが難しい環境がありました。
車田さんは創作活動に集中し、大谷選手も野球選手として競技に集中しています。
本人が本業に全力を注ぐために、信頼できる人物へ実務を任せる。
これは決して不自然なことではありません。
むしろ、トップクラスのクリエイターやアスリートであれば、専門スタッフに仕事を任せることは合理的でしょう。
車田さん横領事件との共通点3:一人の人物が情報をコントロール
本人と外部との連絡を一人の人物が仲介する状態になると、情報そのものをコントロールできてしまいます。
こうなると、本人が不正に気づくためのきっかけ自体が減ってしまいます。
つまり、2つの事件には、「信頼」「本人が本業に集中している」「権限の集中」という要素が重なっていたと見ることができます。
なぜ?身近な人が裏切る心理
では、なぜ人は長年支えてきた相手を裏切ってしまうのでしょうか。
これは単純に「最初から悪い人だった」と考えるだけでは説明しにくい問題です。
もちろん、不正を行った本人の責任がなくなる訳ではなく、実際に性根が悪い可能性もあります。
そのうえで、人間心理という観点から考えると、いくつかの段階があると考えられます。
自己正当化
まず考えられるのが、自己正当化です。
- 「少しくらいなら問題ない」
- 「後で返せばいい」
- 「自分はこれだけ相手に貢献してきた」
- 「この程度のお金なら相手は困らない」
こうした考えをすると、最初の一線を越えるハードルが下がってしまいます。
一度でも不正をしてしまうと、今度はそれを隠す必要が出てきます。
すると、さらに別の嘘や不正を重ねることになる。
最初は小さな逸脱だったものが、時間とともに大きくなっていく可能性があります。
依存症などによる思考の歪み
水原氏の事件では、違法なスポーツ賭博による損失が背景にありました。
負けた分を取り戻したいという気持ちが強くなると、「次こそ勝てば元に戻せる」という考えに陥ることがあります。
そして損失が大きくなるほど、さらにお金が必要になる。
こうして抜け出しにくい状態になってしまいます。
一方、車田さんの事件では、横領された資金の一部が暗号資産の購入などに使われていたとされています。
両事件の事情は異なりますが、「今の問題を何とかするために、さらにお金を動かす」という構造には共通する部分があります。
自分が特別な存在との思い込み
そして、もう一つ重要なのが「自分は特別な存在だ」という感覚です。
長年そばにいる人物ほど、「自分がいなければ、この人は何もできない」と感じることがあります。
仕事を支えてきたという自負が強くなればなるほど、「これくらい自分が受け取ってもいい」という歪んだ正当化につながることもあります。
【横領】身近な人の裏切りを防ぐ方法はあるのか
身近な人による裏切りを完全に防ぐ方法はありません。
どれだけ注意していても、人間関係に絶対はないからです。
ただし、不正が起きにくい環境を作ることはできます。
ここでは、家庭でも応用ができる金銭のやり取りで起きやすい裏切りを防ぐ方法を考えます。
権限一極集中を避ける
その代表的な方法が、権限を一人に集中させないことです。
たとえば会社のお金を一人だけが管理し、入出金の確認もその人物が作った帳簿だけで行う状態にすれば、不正は簡単にできてしまいます。
別の人が定期的に確認するだけでも、状況は変わります。
また、銀行口座や会計資料などについて、本人が完全にノータッチにならないことも重要でしょう。
すべての細かい作業を自分で行う必要はありません。
ただ、「現在いくらあるのか」「どんな収入が入っているのか」「大きな支出は何なのか」くらいは定期的に確認する。
これだけでも異変に気づくきっかけになります。
連絡先を一つにしない
もう一つ大切なのが、連絡経路を一つにしないことです。
出版社、取引先、税理士、金融機関などといった重要な相手との連絡を、一人の人物だけが握る状態にしない。
本人が直接確認できるルートを残しておけば、情報を完全に遮断されるリスクを下げられます。
ミスをする前提で確認する
ただし、ここで「人を疑うこと」に抵抗を感じる人もいるでしょう。
長年付き合ってきた家族や友人、仕事仲間に対して、「あなたを信用していないからチェックする」と言えば、関係が悪くなる可能性もあります。
だからこそ、「あなたを疑っている」のではなく「誰でもミスするから確認する」という考え方が大切なのだと思います。
違和感を見逃さない
そして何より重要なのは、違和感を放置しないことです。
- 「いつもと説明が違う」
- 「なぜか数字を見せてもらえない」
- 「本人に直接確認するなと言われる」
- 「重要な情報がなぜか一人の人しか知らない」
こうした小さな違和感が出てきたときに、確認する習慣を持つ。
それは相手を犯罪者扱いすることではありません。
大切な関係を長く守るための予防策と考えることもできます。
車田正美さんと水原一平氏の事件は、それぞれ背景も事情も異なります。
しかし、信頼していた身近な人物に重要な権限が集中すると、その信頼そのものが不正を隠すための盾になってしまうことがあります。
「信じていたのに」という言葉には、被害に遭った人の大きな苦しみが込められています。
だからこそ、信頼することと確認することを両立させる。
それは相手を疑う冷たい行為ではなく、お互いが一線を越えずに済む環境を作るための、ひとつの愛情なのかもしれません。


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